様々な業態があるアパレル業界
アパレル業界と一口に言っても業態は様々です。洋服の種類で分ければスーツを専門に取り扱っている会社もあれば、下着を専門に取り扱っている会社もあります。価格帯で分けるならば1枚1,000円以下で買えるものから、数十万円もするものまであります。またユニクロのようにデザインから販売まで一貫して行なっている会社もあれば、セレクトショップと呼ばれる販売に特化した会社もあります。
今回は業態の異なる複数の会社を決算書の観点から比較をしていきます。比較していくのは以下の4つの会社です。
紳士服で業界No.1の洋服の青山、セレクトショップでBeamsと双璧をなすユナイテッドアローズ、カジュアルウェアを安価で提供するしまむら、ファストファッション業界をリードするファーストリテイリングの4社にはそれぞれどのような特徴があるのでしょうか。
原価率・費用構造について
それでは最も気になる原価率や費用構造を見ていきましょう。
4社の売上に対する売上原価、販管費、営業利益の内訳は以下のとおりとなっております。
しまむらの原価率が約68%と突出して高いことが分かります。しまむらは低価格帯の商品を扱っているため原価率が高くなっていることが推定できます。
ファーストリテーリングも価格帯的には同じぐらいの商品を扱っていますが、原価率は15%以上も低くなっています。以下の2つの理由によりファーストリテーリングの原価率が抑えられているのではないかと考えられます。
・商品を自社で開発している。
・大量生産、大量販売によるコスト削減
しまむらは基本的に外部の業者から仕入れた商品を販売しているのに対して、ファーストリテーリングは商品を自社で開発しています。自社で行なっている業務の幅が広いため利益率は高くなります。
また、ユニクロの店舗を見てみると色やサイズは豊富にありますがアイテム数はそれほど多く無いように感じます。そして売上高は約2兆円としまむらの約4倍となっています。少ないアイテムを大量に生産することが可能となりコスト削減につながっているのでは無いかと考えられます。
以上によりファーストリテーリングはユナイテッドアローズのような高価格帯の業態と同じぐらいの原価率を実現しています。
1店舗当たり売上高・従業員数
次に1店舗当たりの売上高と従業員数を見ていきましょう。4社の1店舗当たり売上高と従業員数は以下のとおりとなっております。
1店舗当たり売上高はファーストリテーリングが最も大きくなっています。一方で店舗当たりの従業員数も多いことが分かります。
ユナイテッドアローズは店舗当たりの売上高の割に従業員数は多くありません。単価が高い商品を扱っているため、それほど従業員数は必要ないのでしょう。
青山商事は売り上げの割に従業員数が多いことが分かります。スーツの場合採寸や試着の際に店員が立ち会うことが多く、店舗に人員を配置しておく必要があることが主な要因でしょう。
棚卸資産回転期間
次は棚卸資産を見ていきましょう。一般的にアパレル業界はトレンドの移り変わりが早く、在庫に関するリスクが高い業界です。4社の棚卸資産の回転期間は以下のとおりとなっております。
棚卸資産の回転期間は紳士服の青山商事が最も長くなっています。カジュアルウェアに比べてトレンド要素が少ないという特徴があります。紳士服の店は空いていることも多く、やはり商品の動きは遅いようです。
意外にも差が開いたのが、しまむらとファーストリテーリングです。ファーストリテーリングの棚卸資産の回転期間は約4.2ヶ月と長くなっております。ファーストリテーリングは生産を外部の工場へ委託をしており、委託先の在庫もファーストリテーリングが所有しているため、回転期間が長くなってきているのでしょうか。
季節別の売上割合
アパレル業界は季節によって販売アイテムが異なるという特徴があります。季節別の売上はどのようになっているのでしょうか。4社の内訳は以下のとおりとなっております。
決算月が違うため各シーズンは以下の月を指します。
青山商事は冬の売上が大きくなっております。入学や卒業シーズンに合わせてスーツを新調するために3月の売上が大きくなっていることが想定できます。全体的に単価が高くなる秋冬の売上が大きくなる傾向があります。しまむらは四季を通して均等に売上が計上されているのが特徴的です。
まとめ
今回は様々な業態があるアパレル業界を決算書の観点から比較をしてきました。決算書を見ると会社の経営戦略への理解を深めることができます。
最近は見なくなりましたが、紳士服屋さんで2着買うと安くなるキャンペーンがよく展開されていました。スーツは原価率が低く多少値引きをしても2着買ってもらったほうが、儲けが多くなるためそのようなキャンペーンを展開していたのでしょう。
しまむらの店舗は都心にはなく郊外を中心に展開をしています。それは原価率が高いため家賃が高いところに店舗を出してしまうと採算が取れないためです。一方でファーストリテーリングは銀座や駅ビルといった一等地に店を出しています。原価率が低いため家賃の回収ができますし、自社の商品を展開しているため旗艦店の出店によりブランドイメージを高める狙いもあるのでは無いかと考えられます。
このように決算書を見ることで業界に対する理解をより深めることができます。