日本企業の分析

株式会社パピレス 決算分析

株式会社パピレスってどんな会社?

株式会社パピレスは東京都千代田区に本社を置く電子書籍の販売事業を行なっている会社です。2020年3月期の連結売上高は228億円、連結従業員数は92人となっております。パピレスは富士通株式会社の社外ベンチャー制度を利用して天谷幹夫氏によって1995年に株式会社フジオンラインシステムとして設立されました。2007年に現在の主力事業となる「電子貸本Renta!」を開設しました。その後2010年に大阪証券取引所JASDAQへ上場を果たしました。

各種指標及び株価の推移

株価の推移

株式会社パピレスの2020年3月期から過去5年間の株価の推移は以下のとおりです。

上がり下がりが激しい銘柄であることが分かります。日経平均とはあまり連動していないようです。

各種指標(2020年3月時点)

株価収益率(PER)89.76倍 

株価純資産倍率(PBR) 2.12倍

株価収益率、株価純資産倍率はともに高い水準にあり株式市場から評価されている銘柄であることが分かります。

損益計算書分析

株式会社パピレスの2020年3月期の連結損益計算書の概要は以下の通りとなっております。

粗利率は54.8%となっており比較的高い水準にあることが分かります。単体決算の数値ですが売上原価の内訳が開示されていたので見ていきましょう。売上原価の内訳は以下のとおりです。

売上原価の大半を占めているのが著作権料となっております。パピレスの配信しているコンテンツのほとんどが出版社が著作権を持っており、当然出版社に対して対価を支払う必要があります。売上に対する著作権料の割合は約40%となっております。例えば1,000円の電子書籍を買った場合には約400円が出版社の取り分となっているようです。

販管費について

株式会社パピレスの販管費の内訳は以下の通りです。

販管費の中で最も大きな割合を占めるのが広告宣伝費となっております。芸能人を使った印象的なコマーシャルは見たことがない人はほとんどいないのではないでしょうか。企業規模を考えれば68億円というのはかなりの投資額です。

Renta!のサイトを見るとサンプルとして無料で読めるサービスが展開されております。販売促進費はこれらの無料サンプルに関する費用が多くを占めているのではないかと想定されます。

代金回収手数料はAppleやGoogle向けに払っている費用であることが想定されます。APPストアやGoogle playを通じて課金した場合には課金額の3割がプラットフォーム利用料としてAppleやGoogleが持って行ってしまいます。

貸借対照表分析

2020年3月期の連結貸借対照表の概要は以下のとおりとなっております。

資産総額は約130億円となっております。資産の大半が現金及び預金が占めております。計上されているものは主に売上債権と仕入債務等であり非常にすっきりとしたバランスシートとなっております。自己資本比率は58%となっており財務体質は健全な水準にあります。

海外事業について

パピレスは近年海外事業を強化しております。海外での電子書籍の配信事業のために設立された会社は以下の3社です。

上記の会社を通じて台湾版やアメリカ版の「Renta!」を展開しております。これらの海外事業は現状ではまだ、業績に大きく貢献していないようです。以下は2020年3月期のパピレスの連結と単体の売上高です。

連結と単体の売上高はほとんど同じであり海外子会社の売り上げは僅かであることが分かります。

そもそも海外ではマンガを読むという文化があまり無いことがRenta!普及の大きな障壁となっているようです。そういったこともあり2019年にめちゃコミックを展開するアムタスと共同出資により「アンドエージェンシーグローバル株式会社」を設立しました。

アンドエージェンシーグローバル株式会社は海外販売向けのコンテンツの配信許諾代行、翻訳サポート、取次と配信先の開拓事業を行う会社です。出版社が海外進出をすることを支援することにより海外のマンガ市場を拡大しようという狙いがあるのでしょう。海外でマンガが普及すれば「Renta!」の海外事業の拡大も期待できるからです。

合理的かつ長期的な視点に立った素晴らしい戦略だと思いましたが成功するかは分かりません。海外市場を開拓できれば売り上げは飛躍的に伸びることが期待できます。

まとめ

今回は電子書籍の配信事業を行っている株式会社パピレスを取り上げました。分析を通して非常に魅力的なコスト構造であると感じました。通信販売と店舗での販売を比較した場合、通信販売は配送コストが大きな負担となります。一方で電子書籍の場合はダウンロード販売であるため配送コストがかかりませんから、その分だけ紙媒体よりもコスト優位性があります。現状では、このコスト優位により得たお金は広告宣伝費に回しているという状況となっております。Renta!が軌道にのれば広告宣伝費を抑えることができて利益が増大することが期待できるのではないでしょうか。従業員数も少なく固定費が小さいため非常に魅力的な費用構造です。

一方で海外事業の成否はまだ分かりません。日本のアニメは海外でも人気がありますがマンガを読むという文化が根付くまでにはまだまだ時間がかかるのでは無いかと思います。

おまけ

株式会社パピレスは株主優待を導入しております。1単元(100株)の保有でRenta!で利用可能なポイントが1万ポイントもらえるようです。

総合評価

以上を踏まえ筆者の株式会社パピレスの財務数値の評価は以下の通りです。